COVID-19禍における教育の現状と今後への提言

アメリカの有力なシンクタンクであるEconomic Policy Institute(経済政策研究所)は、昨年のパンデミックが教育に与えた影響について、レポート “COVID-19 and student performance, equity, and U.S. education policy” を発表。5000万人以上の学童を有するアメリカにおける、コロナ禍の教育の現状、特に、ICTを活用したリモート教育や、コロナ禍で新たに生じた教育の機会不均衡について、エビデンスをまじえながら考察、結論として、今後の教育をより良いものとするための3本の柱を提案している。2回に分けてレポートを紹介する。(2021.8.27更新)

特集
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1.学校教育がリモート教育に移行

自宅待機による変化
2020年春、アメリカでは、ほぼすべての学童が自宅待機を余儀なくされた。子どもたちは学校教育の機会を制限され、グループ活動、チームスポーツなどの課外活動も大幅に縮小された。教育を取り巻く状況が激変したことで、学習者、教員どちらも、様々な課題に直面することとなった。例えば、コロナ禍で経済格差が浮き彫りとなり、その格差は、教育格差へとつながった。コロナ禍以前より十分な教育を受けていなかった子どもの多くは、さらに困難な状況に追い込まれ、コロナ禍の代替教育に参加することすら困難になった。今回のパンデミックを機に、現行の教育システムの見直しが求められている。

在宅リモート教育の要件は整っていたか?
リモート教育移行で、教師と児童や生徒はオンラインでつながり授業が行わえる。在宅でのオンライン学習に際しては、1)学習者がインターネットやICT機器(PCなど)を利用できることと、2)オンライン教育の実施に向け、教員が専門的なトレーニングを受けていることが要件となる。様々な事情でこれらの要件が満たされない場合、教育の遅延が発生する。コロナ禍では、学習者の学習スタイルや学習環境を整える間もなく在宅への移行が始まったため、学習に必要なリソースの不足から、学習成果に悪影響が出ている。

2.代替教育実施期間の問題点

学習時間の確保が困難
コロナ禍では、オンラインを活用した代替教育が実施されているが、絶対的な学習時間の不足により、子どもの学力低下や発達の遅れが発生していると考えられる。学力を維持するには、スケジュールを調整することで総学習時間が減らないよう工夫したり、夏季休暇や放課後の時間を活用した学びの機会を設けたりすることで、学習の量を増やすことと、個別化教育、少人数学習による学習環境の整備や、優秀な教員の確保による学習の質の向上が、どちらも重要である。

デジタルデバイドの克服
リモート教育に係る最も大きな障壁の一つは、オンライン学習に必要な情報端末やインターネットの利用環境だ。一部の学習者は、利用環境が整わないこと(=デジタルデバイド)によって、事実上、学習の機会を喪失している。様々な事情でPCなどの入手が困難であったり、操作に習熟していなかったり、十分な技術サポートを受けられなかったりするケースだ。

経済格差が教育格差につながる
コロナ禍は、所得による学習機会の不均衡を一層悪化させている。学習機会の不均衡とは、すなわち、学習と発達の成功に必要なリソースの多寡である。これには、食べ物・栄養、住居、健康保険・医療ケア、経済的支援の利用機会など、あらゆる要因が関係している。デジタルデバイドの制約に加え、保護者が失業していたり、十分な医療ケアを受けられなかったり、体調が悪くても仕事を休めなかったり、十分に子どもの世話ができなかったり、健康リスクの高いエッセンシャルワーカーとして働いていたり、といった場合には、状況は困難を極める。この場合、家族はリモート学習に悪戦苦闘する子どもを放置せざるを得なくなるため、さらに教育が滞る。

個別教育の必要性
子どもたちは、一人一人、学力も、最適な学習法も異なっている。学習者の潜在能力に加え、社会全体の教育システムや個々の家庭の教育リソースなど、多くの環境要因により学習成果が決定される。特に、コロナ禍では、子どもたちは個人で学び、それぞれ異なる課題に直面している。特に、学業放棄や不登校のリスクが高い子どもに対しては、集中的な介入を行う必要がある。その他にも、家庭の経済状況が悪化(上記)しているなど、センシティブな環境に身を置く学習者に対しては、迅速、適切なサポートが求められる。教員に適切な職能教育を施し、個別介入に必要な技能を養成するべきである。

3.問題の特定と対策

学力だけでなく、総合的な診断を
このような問題に対処するには、まず、診断テストによって学習者の現状を正確に把握したのちに、問題の解決に向けた計画を検討することになる。診断テストの際には、ごく一部の能力(例えば、学力。保護者の社会経済的ステータスに依存する場合が多い)で子どもの能力を序列化するのではなく、個々人の潜在能力を見極められるテストが有効だ。コロナ禍で大規模なテストを開催しづらい状況ではあるが、特別な教育を受けた裕福な子どもだけが有利にならないよう、子ども一人一人を、総合的な視点で診断・評価するような取り組みが必要だ。

テスト結果を実践に移す
上述のような適切な診断テストを実施したら、その結果を基に、学校・教員は、教育内容の改善に取り組む。不登校のリスクなど、学習者が困難な状況にあればあるほど、総合的な診断テストによる問題の本質の見極めが必要になる。テスト結果を基に介入を検討する際には、教員に、プロジェクトベースの学習、学修や課外活動などの総仕上げとして実践的な課題を扱うキャップストーンプロジェクトなど、学習と評価について幅広い知識が備わっているとよい。このような知識は、一つ一つの課題に合わせたきめ細かな学習計画の検討を可能にする。

社会性と情動の学習 (SEL)を強化
子どもの発達の重要な要素として、社会性と情緒的能力が挙げられる。総合的な診断の結果、この点に課題が見つかった場合は、保健室の先生、カウンセラー、ソーシャルワーカーなど、支援に携わる人材の拡充を検討する。これらの人材を充実させることで、社会性と情動の学習行い、学習者の体と心の健康をサポートすることもできる。また、学校のカリキュラムを、社会感情学習を含めた視点で再検討する必要もある。

4.何をなすべきか

教育界でも、コロナ禍で多大な影響が出ているが、適切な対策を講じることで、被害を最小化することができる。これまで世界が経験した、不景気、自然災害、疫病では、復帰のため社会全体で大きな取組みが求められてきた。本レポートでは最後に、リモート教育をはじめとする、コロナ禍中とアフターコロナの施策について、救済→回復→再建を提案している。

救済とは
コロナ禍中の学校に対し、リモート教育に必要なリソースを、素早く配給する。例えば、学区単位でインターネット環境や情報端末(PC、タブレットなど)を整備したり、ICTの技術サポートを実施したりすることで、デジタルデバイドを解消する。同時に学校では、学習者の学びの環境を把握するよう努める必要がある。学習者の、オンライン学習に必要なインターネット環境、PCなどICT端末の保有状況、ICT端末を使うのに十分なスキルの有無などである。学習者が日常的に指導を受け、学び続けるのに十分なリソースを整備する必要がある。

回復とは
リモート教育から対面での校内教育に戻る際には、コロナ禍で失った学習時間・機会を埋め合わせることができるような、資金投入も含めた対応が求められる。学区、教育システム全体において、適切な診断テストを、学校カリキュラムに組み込んで実施して、学習者の課題を特定し、教師による適切な介入につなげる。

再建とは
子どもの総合的な発達、すなわち相互に関連する認知スキルと社会情緒のスキルをどちらも高めるためにに必要な環境・リソースをすべての子どもが享受できるよう、学校・教育制度改革を行う。教育システムの複雑性を加味した上で、すべての学習者を平等に扱いながら才能を引き出し、社会が求める教育を実現できるような仕組みの再構築が必要だ。これには、国家や州の政策立案者によるリーダーシップと、多くの教育関係者が一丸となって取り組む姿勢が必要だ。教育現場に的を絞った介入を実施し、コロナ禍で生じた教育格差(教育機会の不均衡)を将来に持ち越さないための、総合的な対策が必要とされる。

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