メディカルスクール(英国)の授業オンライン化についての調査

2020年5月、英国でオンライン医学教育に関する調査が実施された。メディカルスクール39校に在籍する2721名の医学生から、コロナ禍におけるオンライン教育導入に関して、アンケート回答を得た。その結果から、ビフォー・アフターで学生の学習スタイルにどのような変化があったのか、学生はオンライン医学教育をどのように考えているのか、オンライン教育のメリット・デメリット、今後の展望などについて考察したBMJ掲載レポートを紹介していく。

特集
before the COVID-19

1.コロナ禍でどのような変化があったのか

コロナ禍以前の医学教育

コロナ禍以前、学生は、平均で週4~6時間、オンラインの教育プラットフォームを利用しており、種類別で見ると、YouTubeなどの指導動画、クエスチョン・バンク、フラッシュカードなどの利用が目立った。反対に、ライブ授業の活用は、あまり一般的ではなかった。また、1週間に15時間以上、オンラインプラットフォームを利用すると答えた学生は、7.35%であった。

コロナ禍で利用状況が変化

一方、コロナ禍以後では、1週間に15時間以上オンラインプラットフォームを利用すると答えた学生は、23.56%へ激増した。オンラインの教育プラットフォームの週あたり平均利用時間は7~10時間となっており、増加傾向を示している。長時間(週に11~15時間、または15時間以上)利用すると答えた学生が増加した一方、短時間(週に1~3時間、または4~6時間)しか利用しないと答えた学生は、大幅に減少した。このような変化は、前臨床教育、臨床教育の学生ともに概ね同じであったが、前臨床の学生では、特に、長時間利用者の割合に大きな増加がみられた。

メディカルスクールで新たな教育様式が普及

コロナ禍の医学教育では、新たな遠隔教育プラットフォームの導入、遠隔授業の実施、オンラインのクエスチョン・バンクの活用などが行われている。今回の調査では、4割超の学生が、自身が所属するスクールにおいて、既存のプラットフォームへの新コンテンツの追加や、新たなプラットフォームの導入が行われたと回答した。ライブ授業の実施や、チャット・会話機能による学生-教師間のコミュニケーションの促進が図られている。


 

2.オンライン医学教育の利点

医学生の所感はやや否定的
メディカルスクールでのオンライン教育について、学生はどう考えているのか? 同調査で実施したアンケートでは、全体的に否定的な意見が目立った。従来の対面式の授業と比べ学習効果が劣る、オンラインであってももっとインタラクティブな授業にしてほしい、将来の仕事に十分な準備ができているとは思えない、などである。ただし、一部には、教師は十分な授業準備を行っている、刺激的な授業が展開されている、授業への参加が容易である、楽しく学習できている、など肯定的な意見も聞かれた。

リモートならではのメリット
また、オンライン特有の利点として、移動の必要が無い、柔軟性が高く自分のペースで学習を進められる、快適な環境で学習に取り組める、などが上位に挙がっていた。さらに、実地教育と比べ費用が安いこと、匿名でのコミュニケーションが可能なこともメリットと認識されている。これらは以前よりオンライン教育の利点と認識されていたものであるが、今回のコロナ禍を機に、その強みが存分に発揮されたと言うことができるだろう。

学習効果を高める映像ツール
今回、様々な教育手法を調査した結果、現場では、YouTube、Osmosis等の動画ツールが重宝されていることがわかった。これらの動画ツールでは、学習内容を短く簡潔にまとめ、様々な視覚効果を駆使して見やすい動画を作り出すことができる。昨今の映像技術の発展は目覚ましく、実地教育に劣らない成果をもたらす、便利な映像ツールが多数展開されている。


 

3.オンライン医学教育の課題

リモート化によるデメリット
オンライン医学教育の不便な点として、家族による邪魔が入ること(26.76%)、インターネット環境が整っていないこと(21.53%)、が上位に挙がっている。その他にも、友人や同級生と会う機会が減りメンタルヘルスの維持が難しい点や、学習に必要な機材を準備できていないこと、学習スペースが無いこと、学習のモチベーションを維持しづらいことが挙げられた。

学習満足度が低下、将来の不安も
メディカルスクールの学生の中には、将来の医療現場で必要なスキルを本当にオンラインで習得できるのか、不安に思う者もいる。「仕事に向けて十分な準備ができている」との回答は、以前の調査と比べ減少した(DREEMの5段階評価で3.18→2.28。大幅な減少である)。実地教育で見られるような教師-学生間のコミュニケーションや迅速なフィードバックの機会が制限されることもまた、学習満足度低下の一因と考えられている。

ライブ配信では技術的課題も
3では、教育現場においてYouTube、Osmosis等の動画ツールの活用が進んでいることに言及した。しかし、講義のライブ配信では、依然、録画と比べ利用可能な映像技術に制約がある。また、事前に動画を編集できないため、講義内容が冗長になりやすい。ライブ配信は、リアルタイムの情報共有やディスカッションが可能であるなど、メリットも大きいため、今後の映像ソリューション開発が期待される。現状では、教育現場のニーズに合わせ、適切な講義形式(録画/ライブ)を選択することが望ましいであろう。


 

4.今後のオンライン医学教育のあり方

実地×オンライン複合、PBL/TBL教育を提案
実地教育、オンライン教育それぞれの長所と短所を正しく把握した上で、これらを適切に併用するのが有効だ。その際、問題解決型学習(PBL)、チーム基盤型学習(TBL)など効果的な教育手法を取り入れることで、学生のモチベーションや理解度を高めることができる。普段の学習はオンライン教材で行いながらもグループ学習の機会を設け、特定のトピックについて実地で議論を交わすのが良い。そうすることで、学生は自身のペースで、自分に合った方法で学ぶことができる。PBLはインタラクティブで自律的な学習の機会を提供し、TBLの小グループ学習では、チューターによるきめ細かなフィードバックが可能である。メディカルスクールにおいてTBLは、特に前臨床段階の学生にとって、学びやすい環境を提供する。
 


以上から、学生がオンライン教育に少なからず不満や不安を抱いていることが明らかになった。しかし、これらの学生の多くは、数年以内に大学を卒業し、医療現場に出て行かねばならない。コロナ禍のオンライン中心の教育は今後も続くことが予想されるため、差し当たり有効な対策として、PBL/TBLによる実地×オンライン複合教育を紹介した。このような教育法を実践しながら、オンライン教育をさらに効率化するソリューション(技術)開発を待つのが最善と言えるだろう。

本調査は、コロナ禍の医学教育オンライン化における医学生の所感を明らかにした、初の試みである。また、イギリス39のメディカルスクールをカバーすることから、非常に大規模な研究と言える。ただし、本調査結果を参照する際には、被験者である学生の想起バイアスや、調査実施時期(試験シーズンに重なったことで、学習プラットフォームの利用状況が通常時と異なっていた可能性がある)による影響も考慮する必要がある。

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